米国現地時間の2021年7月29日、同7月に公開されたMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の映画「ブラックウィドウ」の主演スカーレット・ヨハンソンさんがウォルト・ディズニー社に対し提訴したことに対するディズニーの反論に対し、他のエージェントや業界団体からも批判の声が上がっています。
「ブラックウィドウ」は新型コロナウイルスの影響により、本来より約1年の延期を経て、2021年7月9日に全米で劇場とディズニープラスによるプレミアアクセスの同時公開に至りました。
ヨハンソンさんは「ブラックウィドウ」が劇場による限定公開という前提のもとでマーベル・スタジオと契約を締結していましたが、今回は「親会社のディズニーがマーベルの契約違反を誘引した」として、マーベル・スタジオではなくディズニーを提訴。報道によるとディズニーのこの新たな公開方法によって、新型コロナウイルス以前の予想興行収入から考えて、推定5000万ドル以上の損失がヨハンソンさんに発生しているとの事です。
一方のディズニーはこの提訴に対して「世界的なパンデミックの影響を無神経にも無視している」としてヨハンソンさんを批判し、ディズニープラスでの同時配信にあたって2000万ドルの追加補償を支払っているとしました。
連鎖するディズニー批判
このディズニーの主張に対し、怒りの声明を発表したのはブライアン・ロード氏。ロード氏はヨハンソンさんのエージェントであり、ハリウッドの大手エージェンシー Creative Artists Agency の共同会長を務める人物です。
ロード氏は「ヨハンソン氏が世界的なパンデミックに対して無神経だというディズニーの告発は恥知らずでかつ誤ったものであり、彼女を実際とは異なる人物像に仕立て上げようとしている」として非難しました。また、一方的に報酬額を公開したことについて「アーティスト、そしてビジネスウーマンとしての彼女を成功を、まるで浅ましいことのように自分たちの攻撃の道具として使用するものだ」と指摘しました。
また、ハリウッドで「#MeToo」や「Time’s Up」といったセクシャルハラスメントへの抗議運動を支援してきた団体 Women in Film も「契約上の権利を守る行為を、無神経で利己的なものだとする声明には断固として抗議する。ビジネス的な対立においても、こうした性別の違いに基づく人格攻撃はあってはならない。女性たちが利益を守ろうとすれば人格攻撃を受ける、という環境を作り出すことになる」と声明を発表しました。
また、ヨハンソンさんと共演歴のある俳優のアレック・ボールドウィンさんはツイッターにて#TeamScarlett のハッシュタグを投稿し、世界的に拡散されています。
MCUの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズでドラックスを演じているデイブ・バウティスタさんは今回の問題の記事を引用し、「ドラックスの映画を作るべきだとディズニーに言ったら、“ノー!”だって」とディズニーのやり方を間接的に批判しました。以前にガーディアンズシリーズのジェームズ・ガン監督がドラックスとマンティスのスピンオフ映画を考案中でその内容がとても素晴らしいと評価していたバウティスタさんですが、この話はそれ以降スタジオ側から音沙汰がなくなった事を先日のインタビューにて明かしていました。
「ブラックウィドウ」と同時期にディズニーは今回問題になったのと同様の同時公開という手法で、「クルエラ」と「ジャングルクルーズ」が公開&配信されています。
The Hollywood Reporter の元記者マシュー・ベローニ氏によると、「クルエラ」のエマ・ストーンさんはヨハンソンさんに続いて法的措置を検討しているとの事(gamesradar経由)。一方、「ジャングルクルーズ」のドウェイン・ジョンソンさんは争う意向はないようだと Deadline が報じています。その他、名前は明らかにされていませんが、複数の俳優がヨハンソンさんに続くと報道されています。
また、Variety によると、あるエージェントが「多くの俳優たちはスカーレットを応援している。彼女には大きな力があり、この問題に関する議論は可視化されました。こうしたことが公に行われることで、彼女は業界のルールを変えられるかもしれない」とコメントしている事を報じています。
MCUの次回作である「シャン・チー/テン・リングスの伝説」は同時公開ではなく45日間の劇場独占公開が予定されています。
以前には、ディズニーが同時公開に対応した契約を検討し、作品に出演する俳優や、監督、脚本家、プロデューサーなど制作側の主要な人材に対する報酬も見直し、還元できるシステムを模索し、これらが「ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー」以降に適用されると報じられていました。
マーベル・スタジオの見解は
現在マーベル・スタジオは公式に声明を発表していません。ヨハンソンさんとの契約違反となったのはマーベル・スタジオですが、奇妙な事に訴訟の対象はその親会社であるディズニーになっています。
ベローニ氏は「ケヴィン・ファイギ社長は会社員として、組織と激突したり、怒鳴り合ったりはしない人物」だとしながらも、「同時公開となってしまった事に彼が怒り、恥じていると聞いている」と述べました。ファイギ社長自身は以前から劇場限定公開を望んでいましたが、最終的には親会社であるディズニーの決定に折れたとされています。
しかし現在、ファイギ社長は映画の興収やファンの反応などを受けて、「ディズニーはヨハンソンさんとの信頼関係を回復すべきだ」との考えを示しているとの事。
ヨハンソンさんとマーベル・スタジオとの関係は、「ブラックウィドウ」のプレスツアーでは友好的であり、今後新たなナターシャの物語が描かれる可能性や、ヨハンソンさんが監督としてMCUに戻ってくる可能性が示唆されていました。
今回、契約違反の当事者であるマーベル・スタジオが訴訟対象でない事から見ても、現在も両者の関係は友好だと思いたい所ですが、「親」との問題がクリアにならない限り続編が実現する可能性はないかもしれません。
映画「ブラックウィドウ」は劇場&ディズニープラス・プレミアアクセスの同時公開中です。
ソース:‘Black Widow’ Legal Battle: Inside the Fallout After Scarlett Johansson Sues Disney