MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の映画「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」では古くからのマーベル映画ファンにとっては懐かしいキャラクターが数多く登場する一種のお祭り映画にもなっています。この記事では過去の映画「スパイダーマン」シリーズ、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズと、本作「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」の関係性について考察していきます。
※これより先は「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」のネタバレを含んでいます。ご覧の際はご注意ください。
本作に登場するヴィランは「スパイダーマン」からグリーンゴブリン/ノーマン・オズボーン、「スパイダーマン2」からドクター・オクトパス/オットー・オクタヴィアス、「スパイダーマン3」からサンドマン/フリント・マルコ、「アメイジング・スパイダーマン」からリザード/カート・コナーズ、「アメイジング・スパイダーマン2」からエレクトロ/マックス・ディロンとなっています。また、戦う事がないためヴィランと呼ぶのはふさわしくありませんが、ヴェノム/エディ・ブロックが「ヴェノム」の世界から登場しています。
これらのキャラクターは全てオリジナル版と同じ俳優さんが演技されていますが、リザードとサンドマンに関しては声のみの出演で、映像は過去作のアーカイブ映像が使用されています。なお、日本語吹き替え声優さんについてもオリジナル版からの続投となっています。
ヴェノム/エディ・ブロック
エディたちは他のキャラクターと違い、最初から「ノー・ウェイ・ホーム」への接続が想定されて制作されているはずです。しかし、SSUからMCUへ来た時と、MCUからSSUへと戻る時で描写が少し異なっています。
「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」のクレジットシーンではエディの周囲、つまり世界が一瞬光につつまれ、それが終わるとMCUの世界に到着していました。しかし、「ノー・ウェイ・ホーム」のクレジットシーンでは本編中の他のキャラクターと同様にエディ自体が光に包まれ、元の世界へと帰っていきました。
この描写の違いに意味があるのか、制作スタジオの違いによる統一の失敗なのかはわかりません。これらの移動はドクター・ストレンジの魔術によるものですが、そもそもが記憶に関する操作の魔術であり、転移自体は副産物のようなもので安定していない、と解釈するべきなのかもしれません。
グリーンゴブリン/ノーマン・オズボーン
「スパイダーマン」の物語終盤での食事会でスパイダーマン=ピーター・パーカーである事に気づいたオズボーン。その後のスパイダーマンとの戦いで、自身のグライダーが突き刺さり死亡したオズボーンですが、MCUの世界に呼ばれる事になりました。「スパイダーマン」の最後の戦闘が始まる前に呼び出されてしまったようです。
息子がいる事など、「スパイダーマン」の設定を継承している他、グリーンゴブリンになっている間の事をノーマンが覚えていないのも同様なようです。
治療されたノーマン・オズボーンが元の世界に戻ることで分岐イベントが発生し、グリーンゴブリン/ハリー・オズボーンの助けなしにヴェノムと戦わなくてはいけない未来が待っているかもしれません。
ドクター・オクトパス/オットー・オクタヴィアス
トレーラーのポイント記事でも触れましたが、「スパイダーマン2」に登場したドクター・オクトパスがスパイダーマン=ピーター・パーカーを知ったのはアームの制御から解放されて正気に戻ってからです。そしてそれは、科学者として責任をとって人工太陽と共に川に沈む直前の出来事です。
しかし「ノー・ウェイ・ホーム」に登場したドクター・オクトパスはアームのAIに支配されている且つスパイダーマンの正体を知っているという「スパイダーマン2」のドクター・オクトパスにはなかった状態になっています。この事から、ドクター・オクトパスは「スパイダーマン2」からの来訪ではなく、「スパイダーマン2」にとてもよく似たマルチバースからの来訪と考えるのが適切なようです。
サンドマン/フリント・マルコ
「スパイダーマン3」のヴィランの一人であるサンドマン/フリント・マルコ。「ノー・ウェイ・ホーム」に登場したヴィランの中で比較的描写の少ないサンドマンですが、「スパイダーマン」でオズボーンが死んだ事、「スパイダーマン2」でオクタヴィアスが死んだことを自身の世界の歴史として認識していました。
また、娘との再会を望んでいることや、力を得た方法についても「スパイダーマン3」の設定を継承しています。そして、「スパイダーマン3」にて赦しを得た事が関係しているのか、他のキャラクター達と比べるとさほど反抗的ではありませんでした。最終的には何故か戦うことになるのですが。
サンドマンは「スパイダーマン3」のその後の世界から来たとしても連続性に特におかしな点はありませんが、彼の望みが病気の娘との再会である事を考えると、治療して元の世界に返そうとするスパイダーマンたちと急に戦うことを決めたのは疑問が残ります。ポストプロダクションでカットされたシーンの中に重要なものがあったのでしょうか?
リザード/カート・コナーズ
「アメイジング・スパイダーマン」でリザードは映画の中盤でスパイダーマン=ピーター・パーカーである事を知りました。そして最後の戦いで解毒され、人間に戻りました。それと共に人間の心も取り戻し、落下しそうになるスパイダーマンを救いました。
しかし、「ノー・ウェイ・ホーム」のリザードは名前通りトカゲの状態であり、解毒前の段階で呼び出されてしまったようです。状況的にリザードは「アメイジング・スパイダーマン」と同一のキャラクターと見ても問題なさそうで、彼が治療されて帰ったことでグウェンのパパの死も回避されるのか気になる所となっています。
エレクトロ/マックス・ディロン
「アメイジング・スパイダーマン2」に登場したエレクトロ/マックス・ディロンは本作と過去作のつながりを考える上での問題児です。
その問題点の一つ目は見た目が大きく異なっている事。この問題を好意的に解釈するのであれば、MCUに来たエレクトロはスクリーンに表示されるまでの間にいくつかの場所で電力をチャージして成長し、姿が変わったというもの。スティーブ・ロジャースが超人血清の力を得て姿が変わったのと同様、と言いたい所ですが、やや強引な解釈です。
そして次に、「アメイジング・スパイダーマン2」でエレクトロがスパイダーマンの正体を知るシーンはなかった事。この点も強引な解釈をするとすれば、「アメイジング・スパイダーマン2」では気絶したマックスの元をスパイダーマンが去る際に、グウェンがピーターと呼びかけています。この事を朦朧とした意識の中で耳にし、正体を認識した可能性は考えられます。そしてあくまで名前を聞いただけであり、顔を見たわけではないので、「ノー・ウェイ・ホーム」での「スパイダーマンは黒人だと思っていた」との言葉も辻褄が合わせられます。
しかし2点ともかなり無理矢理な解釈であり、「アメイジング・スパイダーマン2」と似た世界の変異体エレクトロと考えるほうが、MCU的には自然かもしれません。
親愛なる隣人スパイダーマン
トビー・マグワイアさん演じるスパイダーマン/ピーター・パーカーは「スパイダーマン3」の後のメリー・ジェーンとの関係にふれるなど、過去の物語の続きを思わせる描写があります。
しかし、自身と戦って死んだはずのグリーンゴブリンやドクター・オクトパスと再び戦うことについて、特に混乱する様子もなく大人の対応をしています。MCUではあまり目立っていませんが、コミックのピーター・パーカーは天才であるため、すでに状況は分析済みで驚くようなことでもない、と言った所なのでしょうか。
アメイジング・スパイダーマン
アンドリュー・ガーフィールドさん演じるスパイダーマン/ピーター・パーカーはグウェンを失った哀しみなど「アメイジング・スパイダーマン2」の出来事を思い出させる描写があります。
「アメイジング・スパイダーマン」でリザードの解毒薬を作ったことがある事には言及しましたが、こちらもトビー・パーカー同様にいなくなったはずのヴィランに対しては薄味なリアクションでした。
二人のスパイダーマンの薄い反応こそが、今作の5人のヴィランが過去作でエモーショナルな戦いをしたヴィランとは異なる変異体である事を証明しているのでしょうか?
ドクター・ストレンジの魔術の謎
ドクター・ストレンジの失敗がきっかけで大きなトラブルになった今作。
そもそもドクター・ストレンジのいう「スパイダーマンの正体を知る者が集まってきた」、「彼ら(ヴィランたち)は元の世界でスパイダーマンに倒され、命を落とす運命」という説明は正しいのでしょうか?
スパイダーマンの正体を知るメリー・ジェーンなどは登場しませんでしたし、リザードやサンドマンは過去の映画では命を落としません。
ドクター・ストレンジの説明が正しいとすると、リザードやサンドマンも命を落とす世界からの来訪者である事を裏付けているのかもしれません。
また、最終局面で使用された「世界中の人々からピーター・パーカーの記憶を消す」事に関しても色々と謎が残っています。
まず「世界中」とはどの範囲を指すのでしょうか。
例えばドラマ「ワンダヴィジョン」ではワンダの力によって、ウェストビューを囲っていたヘックス付近の住人である地元の保安官たちは、記憶を操作され、ウェストビューの存在について認識出来ていませんでした。一方で、遠方から来たジミー・ウーやモニカ・ランボーには影響がありませんでした。
ドクター・ストレンジの記憶操作は物語序盤で失敗したものも含めて、最低でも地球全体には効果があるように考えられます。しかし、MCUの世界はすでに宇宙にも多くのキャラクターが進出しています。
「ファー・フロム・ホーム」でトニーの遺品イーディスをピーターに託すよう仕向けたニック・フューリーもピーターを忘れてしまったのでしょうか?映画「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」で映画話で盛り上がったピーター・クイルや、「アベンジャーズ/エンドゲーム」で自己紹介をしあったキャプテン・マーベル/キャロル・ダンヴァースもピーターの事を忘れてしまったのでしょうか?彼らはこの時系列時点で宇宙にいると推測されています。「また会おう」と誓って元の世界に帰っていったトビー版ピーターとアンドリュー版ピーターもこの事を忘れてしまうのでしょうか?
そして、一口に「記憶を消す」という事象がいったいどういう事態が招くのかも説明されていません。
映画のラストで新たなアパートでの新生活を始めたピーター・パーカーはGED(General Educational Development:一般教育修了検定)、つまり高卒認定試験の対策本を携えていました。これはつまりピーターが高校を卒業出来なかった事を現していると考えられますが、MJたちと距離を置くために自主的に退学したのでしょうか?それとも「記憶がきえる」とはピーターに関する記録も消えているのでしょうか?
もし高校の名簿からも消えているとなると、謎はかなり広がります。免許やパスポートなどの公的証明はどうなっているのでしょうか、そもそも出生記録の段階から消えているのでしょうか?アパートを借りる際に身分証明はしているはずですから、すべての記録が消えていると生活にかなり不都合が生じるようにも思えます。これではGEDを取得出来るのかも怪しくなります。
また、記録は公文書だけではありません。MJやネッドが持っているであろう、ピーターの写真データなどはどうでしょうか?メッセージアプリのログは?「アベンジャーズ/エンドゲーム」に登場したトニーとピーターのツーショット写真は?イーディスの認証データは?あらゆるマルチバースの生命を監視していたTVAの記録からも消えているのでしょうか?
多くの謎が残されている「記憶を消す」という解決方法に関して、「ノー・ウェイ・ホーム」の脚本家は「主に感情的な部分に焦点を当てようと決めました。そしてここで回答されなかった疑問がある場合は、別の映画で回答できることを願っています。」とVariety とのインタビューにて語っています。
マルチバースの侵食というこれまでとは異なる危機を描いた本作ですが、ピーターの大いなる責任による決断の末、終止符がうたれました。
治療されたヴィランたちが元の世界に戻ってもスパイダーマンに倒されることなく救われるかもしれませんが、分岐イベント及び変異体はTVAの剪定対象となっています。TVAの時空間は地球ないしは銀河系と異なる可能性は高いですが、シルヴィが在り続けるものを倒しTVAが崩壊した後と考えていいのでしょうか?しかしながら「ロキ」シーズン1のラストではTVAもまた別のマルチバースに存在している事が明らかになったため、治療されたヴィランたちがマルチバースのTVAによって剪定されてしまう可能性は少なからず残されているようです。
本作では多くの謎が未解決のまま残されており、新たなスパイダーマン3部作やマルチバースと関係が深い「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」や「アントマン&ワスプ:クアントゥマニア」、「ロキ」シーズン2などで補足されていくかもしれません。
映画「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」は 2022年1月7日 より日本公開中です。