マーベル・スタジオ制作のMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のアニメ「アイズ・オブ・ワカンダ」のアニメーションを担当していたスコットランドを代表する制作会社アクシス・スタジオが閉鎖された件について、海外メディア Forbes がその内情を報じました。
記事によると、2000年に設立されたアクシス・スタジオが資金繰りの失敗によって倒産したと、その経緯について報告。
ビデオゲームのムービーシーンや予告編で広く知られるAxisは、「Halo」、「Gears of War」、「League of Legends」といったタイトルの制作を手掛け、Amazonプライム・ビデオの「Lost in Oz」シリーズやNetflixの「スクルージ:クリスマス・キャロル」、そして「ラブ、デス&ロボット」の複数のエピソードも制作しました。
また、トム・ハンクスさん主演の映画「Otto」や、アードマン・アニメーションズの「ひつじのショーン:ファームの逆襲」などにも参加していました。
「アイズ・オブ・ワカンダ」も比較的好評でしたが、数々の過去の実績も同社の危機を救うことはなかったと言います。
アクシスは新型コロナウイルスのパンデミックに続きハリウッドストライキというダブルトラブルの打撃を受け、急激なインフレも同社の利益を圧迫。しかし、最終的に同社の破綻を招いたのは、業界の仕組みだったと言います。
内部文書によると、「パンデミック後、業界は制作委託の減少を経験し、特に同社の顧客基盤の大部分を占めるビデオゲーム部門で顕著でした。同社はまた、2023年5月から9月にかけて発生した米国の脚本家ストライキ、そしてそれに関連して2023年11月まで続いた俳優ストライキの影響も受けました。これらのストライキにより、制作スケジュールが大幅に延期されました。これに加えて、特に人件費を中心とした大幅な原価上昇が、利益率と全体的な収益性をさらに低下させました。」
「同社のワークフローでは、一度に少数のプロジェクトのみが稼働しており、個々のプロジェクトが比較的規模が大きいため、多額の完了支払いを受けるまで、または委託間に大きなギャップが生じるまで、キャッシュフローに圧力がかかる可能性がありました。取締役会は、2025年初頭に主要プロジェクトの開始を予定しており、業務パイプラインは良好であると考えていましたが、プロジェクト開始の遅延が発生し始めました。その結果、通常はプロジェクト開始時に顧客から受け取る初期費用の支払いが延期され、会社はキャッシュフローの困難に直面しました。」
「これは同社の財務に暗い影を落としました。スタジオの親会社であるアクシス・プロダクションズは、歴史的に利益を上げ、キャッシュフローも豊富でしたが、2023年11月30日までの1年間で、収益3,260万ドル(2,570万ポンド)に対し、連結損失110万ドル(83万9,000ポンド)を計上しました。重要なのは、現金準備がわずか38万ドル(30万ポンド)しかなかったことです。これは、状況が悪化した場合の余裕がいかに少ないかを示しています。そして、まさにそれが現実となりました。書類には、「同社は2024年6月に給与支払い義務を履行できず、フリーランスの契約社員への支払いも延期せざるを得なかった」と記されています。
さらに、「同社の継続的なキャッシュフローの困難を踏まえ、取締役は数ヶ月にわたり外部の専門家の助言を受けていた。事態が悪化し続けたことから、2024年6月下旬に破産管財人に相談することが適切と判断された」と付け加えています。
翌月、同社は経営破綻に陥る事に。これは英国連邦破産法第11章にあたる。同社は管財人であるインターパス・アドバイザリーの手に委ねられましたが、その評価は悲観的でした。
目立った継続業務の不足、高水準の運営費、従業員の賃金未払い(当時最大6週間分に上っていたとも)、そして利用可能な資金不足を鑑み、インターパスは同社が事業を継続できないと結論付けました。
このとき「アイズ・オブ・ワカンダ」の作業は既に完了していたと見られており、アクシス社には投資していなかったため、スタジオ閉鎖は番組やディズニーには影響しませんでした。151人の従業員の大半は解雇され、会社閉鎖の支援のために残されたのはわずか4人でした。その後、彼らも解雇されました。
スタッフの一人、3D環境アーティストのアリアナ・クエリン氏。彼女は「アイズ・オブ・ワカンダ」に携わった一人で、彼女は最近、番組で制作した作品の一部をオンラインで公開し、「マーベル制作のテレビ番組『アイズ・オブ・ワカンダ』のために手がけた作品の一部を皆さんにご紹介できることを大変誇りに思います。このプロジェクトは私にとって特別な意味を持っています。創作活動がとても楽しかっただけでなく、アクシス・スタジオが閉鎖される前に制作された最後の作品の一つだったからです」とコメントしました。
クエリンさんはその後、 「デッドプール」、「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」 、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」などを手掛けた著名なVFXスタジオ、ブラー・スタジオからフリーランスの仕事を獲得したと言いますが、しかし、そう幸運に恵まれなかった人たちも当然いるとの事。
内部書類によると、アクシスの破綻以降、インターパスが確保できた最大の支払いの一つは、ソニーのGuerilla Games部門から受け取った44,217ドル(32,994ポンド)だったと言います。書類には、この金額は「同社が破綻前に締結した契約に基づき作成された特定のファイルの提供に対するもの」と記載。
バークレイズ銀行は会社の当座貸越として98万ドル(73万2000ポンド)の未払い金を抱えており、英国税務当局は200万ドル(150万ポンド)の支払いを滞納している。また、従業員は60万8000ドル(45万4000ポンド)の損失を被っている。インターパスは「いかなる債権者に対しても何らかの返還が行われる見込みはない」と述べており、この悲惨な状況は今後も続く見込みだと報じています。
「アイズ・オブ・ワカンダ」シーズン2の計画は今のところ報じられていませんが、実現した場合にはシーズン1とは全く異なるスタッフによって制作される事になりそうです。